■バイオの世界の現状や今後について:2023年のノーベル医学生理学賞は「mRNAワクチン」を開発した二人の科学者に授与されました。新型コロナウイルスの世界的感染以後、それまではバイオテクノロジーの専門家だけが知っている言葉だった「PCR検査」は、全世界の人々が知る言葉になり、世界的に流行する病気に対抗する手段として、バイオテクノロジーが役に立っていることを身近に感じることになりました。また、環境分野では、池や川の水に溶けているDNAを分析することにより、そこに生きている魚などを捕まえることなく、種類の推定が出来る環境DNAの技術も進歩し、地球温暖化による気候変動の状況把握に活用されています。さらに、ゲノム編集技術によって、体に良い成分を多く含むトマトや、芽に毒がたまらないジャガイモ、筋肉モリモリのマダイやフグが開発され、一部は皆さんの食卓にのぼりはじめています。バイオテクノロジーの様々な分野への応用は、今後ますます盛んになっていくと思います。■バイオ業界の将来性や可能性:様々な生き物が持つ遺伝情報を全て調べようとするゲノムプロジェクトの成果として、トレジャーハンターのように遺伝子配列を探し出すバイオインフォマティクスの技術が急速に進歩しました。遺伝情報から体質を調べて生活習慣病の改善につなげる遺伝子検査も行われるようになり、オーダーメイド医療に欠かせない技術になっています。ゲノム編集による品種改良も、遺伝情報のデータがあってこそ実現が可能です。一方で、遺伝情報は究極の個人情報でもあり、生命倫理を意識し、個人情報保護の議論を進めていくことが求められています。■バイオの学びの魅力:動物や植物を育てていると、「生きている」とはどういうことなのかを考えることがあると思います。目の前にある生き物が、目には見えない小さな細胞から出来ており、その中に、究極のマイクロマシンとして機能しているDNAやタンパク質があって、それを物質として取り出して研究できることは、ワクワクする体験です。新たに見つけた遺伝子配列を合成し、細胞に戻して働かせることもできます。生き物の神秘に迫ることがバイオテクノロジーを学ぶ大きな魅力です。■バイオ業界をめざす高校生たちへのアドバイス:バイオテクノロジーは、実験室でDNAやタンパク質を取り扱う技術と思われがちですが、材料として使う動物、植物、微生物などの生き物をきちんと育てる技術がなければ成り立ちません。自分の好きな生き物を徹底的に調べてみてください。そして、できれば育ててみてください。愛情をもって生き物を育てることがバイオテクノロジーの第一歩です。NPO法人 日本バイオ技術教育学会理事長あんざい ひろし▶日本大学生物資源科学部特任教授(農学博士)。軟体動物のセルロース分解酵素の研究で学位を取得し、海藻の食物繊維としての機能の解明、カブトムシ幼虫の消化酵素の分析から腸内細菌叢の遺伝子解析へと様々な分野で研究を進めてきたことが役立ち、2019年よりNPO法人 日本バイオ技術教育学会理事長。4動物・自然・農業・海洋・環境・バイオ・化学・造園・フラワー系をめざす人へ安齋 寛氏身近になるバイオの世界
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