教授に聞く、この学問の魅力

女子美術大学 芸術学部
デザイン・工芸学科 ヴィジュアルデザイン専攻

 グラフィックやCG、イラストなどの多様な視覚伝達で、特定の対象にアプローチするビジュアルデザイン。女子美術大学のヴィジュアルデザイン専攻では、クリエイターに欠かせない資質を育むため、パッケージデザインやアニメーション、タイポグラフィなどの課題を通じて独自の表現法を見出すカリキュラムを展開している。
 澁谷克彦教授は資生堂の宣伝・デザイン部で数々の作品を手掛け、栄誉ある賞を獲得してきただけでなく、毎年の年賀状デザインも自身で行う。面白いこと、楽しいことに忠実にあってほしいと語り、培ってきた経験とノウハウを学生たちに惜しみなく伝える教授にお話を伺った。

澁谷克彦教授

1957年東京都生まれ。1981年東京藝術大学デザイン科卒業。同年、資生堂宣伝部入社。 「PERKY JEAN」 「男のギア」「RECIENTE」など化粧品広告をはじめ、「AYURA」「ISSEYMIYAKE」などブランドのアートディレクション&CIデザインを手がける。2002年より「INOUI ID」、07年より「SHISEIDO」といったグローバルブランドのデザインを、パッケージ+スペース+グラフィックとトータルにディレクション。12年4月より『花椿』誌アートディレクターを努める。17年3月に資生堂を退社、4月より女子美術大学教授に就任。19年6月よりキャリア支援センター長。

一瞬で人の心をキャッチするのがデザインの力。
言葉に頼らず見えないものを見せることができる。

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学びの核は、つらい勉強じゃなく楽しい出会い

先生が授業で重視していることは?

 この専攻に入った動機が、絵を描くことやアニメ、イラストが好きという学生たちが結構いまして、それ自体は全く問題ありません。ですが、「伝えたい!」と思わないといつまでも受け手側のまま、自分から発信をすることができなくなってしまいます。本科の学びではそんな学生たちを、ディレクションできる側の人材に育てたいと考えています。
 アニメやイラストなどに積極的なアクションを起こせる人材は大切です。私はそういった子たちを、企業で言うところのマネジメントクラスの一員になれる人物へと育てたい。作品制作の中で目標を示せるグループワークのリーダーとして、力をつけてあげたいと思っています。そうすれば、イラストを描いたり、アニメが好きであったりすることは大きな長所となります。
 本学での学びを通し、自分の選択肢はこんなにあったんだと気づかせてあげたいですし、本当の力を見極めさせてあげたいです。そのために自分の不得意なことにも楽しく触れさせてあげたい。つらい勉強じゃなくて、楽しい出会いです。私はここを重要視しています。

一瞬で人の心を揺さぶる面白さ  見えないものを見せることも

先生が考える「デザイン」とは?

 クライアントにとって本当に必要なことを見つけ、芸術性を使って、多くの人に伝えることがデザインだと思っています。
デザインの持つ力は、人の心をゆさぶります。人は目にしたデザインの美しさや面白さに感動したり、ワクワクしたり、不思議さを感じたりします。そうしたことを言葉で伝えようとしたら多少の時間がかかりますが、皆さんも例えば街を歩いて「アッ!このポスター面白い!」と感じたような経験があるかと思います。この一瞬で、ポスターを作った人とそれを見た自分に繋がりが生まれるんです。このスピード感と面白さは、何にも替えられないものです。
さらに、デザインは見えないものを見せることも、そこに求心力を持たせることもできます。これもデザインというものが持つ凄さだと思いますし、デザインが社会から求められる理由の一つであると思います。

「◎」と「▲」の赤ずきん!?デザイン言語で絵本を作る

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この専攻独自の取り組みはありますか?

 3年次に絵本作りの授業があります。子どもから大人まで年齢に関係なく、デザインの面白さを伝える絵本を作ろうという趣旨のものです。白雪姫とかシンデレラなどの誰もが知っている童話やおとぎ話を題材に、その物語を「デザイン言語を使って伝えよう」というところがポイントです。
 例えば『赤ずきんちゃん』をデザイン言語で表現すると、可愛い赤ずきんちゃんや怖いオオカミの絵は出てきません。例えば赤ずきんちゃんは赤い二重丸、オオカミは黒い三角、おばあさんは花丸の形などになります。このルールに従って実際に物語を作ると、画面の中には赤丸と三角、花丸が動いていて、一見するとなんだかさっぱり判りません。でも、これは赤ずきんちゃんのお話だと見ている人に明かすと、「そういうことか!」となるんですよ。三角が花丸に近づいて重なろうという記号の動きは、オオカミがおばあさんを食べようとしているところなんだと、それまでわからなかったことを理解しようという面白さが、そこに生まれるわけです。誰もが知っている物語だからこそ、単なる記号の動きからストーリーを連想できる面白さがあるのです。そのような面白さを生み出せるのも、またデザインの強みではないでしょうか。

泥臭いデザイン作業に達成感

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学生時代はどのようなデザインの勉強をされていたのですか?

 大学では、唐草など文様デザインを研究するカリキュラムを専攻しましたが、実はそれ程アカデミックな授業には関心がなかったんです(笑)。そういうこともあって、今の自分のデザインに関するノウハウは、基本的に卒業後に身につけた自己流だと思っています。

では、先生が資生堂に勤めていた頃のお話をお聞かせください。

 入社してすぐの頃は何をしていいのかわからなかったですね。30歳を過ぎたくらいの頃でしょうか、当時は広告のアートディレクションをやっていたんですが、自分の理想とするかっこいいデザインをなかなか作れずに悩んでいました。
 ある時にロゴの作成を頼まれ、グラフィックデザインを手掛けました。そのデザイン作業はすごく手のかかるもので、丸2日間つきっきりで熱中して、すごい達成感を覚えました。それまで自分は、どちらかと言えばサラっと仕事をこなすタイプと思っていたのですが、こんなに泥臭い作業に面白さを感じたのは意外で、自分自身が思っている自分と本当の自分は違うところにあるんだなと思いました。この仕事はその後、自分の中でターニングポイントになりました。

発見と伝達は同時進行 自分の感動は常にストック

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ビジュアルデザイン分野をめざす高校生へのメッセージをお願いします。

 面白いものに忠実であってほしいです。そのために大切なことは、まず面白いものを面白いと思える意識を持つことと、面白いものを見つけ出すための観察力や注意力です。次に、見つけた面白いものをグラフィックや映像などに広げて表現し、さらに面白くするための展開力も大事です。他にも創造力、技術力、完成させるためのイメージ、何を伝えるのかというビジョンなど、何か面白いものをつくるということは、多くの要素が必要となるのです。面白いことそのものと、それを面白くするためのヒントはセットにはなっていないので、面白さのカケラみたいなものを見つけたら、それをこまめに拾い集めて器にしていくことが大切です。 あと感動したことも自分の中にストックする癖をつけてほしいですね。面白いという感動が自分の中にあると、人に伝えたいという気持ちと行動が自然と生まれるわけです。

貴重なお話ありがとうございました。
(本ページの内容は「学びのすすめ_芸術系」と同内容です)

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