教授に聞く、この学問の魅力

武蔵野美術大学 造形学部
基礎デザイン学科

 現代には「デザイン」という言葉があふれている。
 それは物だけに限らず、人との出会い、環境、生活など有形無形を問わない。どの分野においても何かをつくりだしたり、何かと何かを結びつけることのできる感覚を持った人材が希求されている。
 武蔵野美術大学・基礎デザイン学科では、常に新たな視点からデザインを捉え直し、多様化するデザイン領域を横断しながら展開できる人材を50年以上にわたり育成し続けている。
 この学科の卒業生でもある清水教授にお話をうかがった。

清水 恒平教授

清水 恒平

武蔵野美術大学教授。オフィスナイス株式会社代表取締役社長。プログラミングとタイポグラフィを軸に、グラフィックデザイン、インタラクションデザイン、デバイス制作など幅広く活動している。近年はNPO法人イシュープラスデザインのソーシャルデザインプロジェクトの多くに参加している。主な仕事に、小学生向けプログラミング教育プログラム「ロボット動物園」。「認知症世界の歩き方」「人口減少×デザイン」「無印良品の家 住まいのかたち」「欲しかった暮らしラボ」などのウェブデザインなど。

無数にあるデザイン
その根底に流れる共通の「理論」を学ぶ。

無数にあるデザインその根底に流れる共通の「理論」を学ぶ。

特定のデザイン分野について教える学科ではない

「基礎デザイン学科」とは、デザインの基本を学ぶ学科なのでしょうか?

 基礎デザイン学科という名称から、デザインの基礎を学ぶと思われがちですが、英語では「サイエンス・オブ・デザイン(Scienceof Design)」と表記します。「サイエンス」は「科学」という意味の他に「~学」という意味もあり、つまり「デザイン学」という意味になります。
 学科開設以来すでに50年以上の歴史があり、従来の縦割りになっているデザイン領域の壁を取り払って「デザインは分けられない」という考えのもとに、横断的にデザインを捉え直しています。特定のデザイン領域に対する技能だけを教えるのではなく、社会のあらゆる問題に対して、常に新たな視点から捉え、創造的な糸口を見出していく技能と能力の育成を目指しています。
 私も本学科の卒業生で、入学した当時に、創設者である向井周太郎先生から「デザイナーを育てようとは思っていない」と言われました。つまり、向井先生は「基礎デザイン学科で学んだことを活かして、新しい職業を切り拓いていきなさい」ということを仰っているんだな、と感じたことをよく覚えています。

ひとつのカタチには収まらない

ひとつのカタチには収まらない

どういった授業が行われているのですか?

 本学科は1年生から4年生までデザイン論がカリキュラムの柱になっていて、並行して記号論や、オートポイエーシス論を中心とした理論科目が配置されています。演習科目はそれらの理論科目の延長として位置付けられており、作品制作を通して色彩や形態の原理を学ぶ基礎科目から始まり、2年次以降は選択科目によって、より具体的なデザイン・プロジェクトを通して、それぞれのデザインテーマや問題領域の発見や追求をしていきます。
 特色としては、たとえばグラフィックデザインを志したい学生は、グラフィック系の授業と並行してプロダクト系の授業も受けながら裾野を広げていく、ということも可能です。決まった目標に向かってレールを敷いているのではなく、それぞれの学生が新しいデザインの分野をつくっていけるようなカリキュラムで、学生自身の判断によって方向性が定まっていきます。
 他学科では午前か午後に1課題で1か月くらい実技を行う集中授業の形を取っていますが、本学科の場合は時間割制を導入しているので、選択の仕方次第では充実しすぎて、慌ただしく感じるかもしれません。
 具体的な例で言うと、私の担当する2年次の「デジタルイメージ研究」という科目ではプログラミングを学びます。最初はもちろんプログラミングの基礎を学んでいきますが、最後はそれぞれの興味のある作品へと展開してもらいます。画面上で自動的に形態が生成されるような作品をつくる学生もいれば、モーターやLEDを制御してフィジカルな作品を作る学生、インターネット上のデータにアクセスしてビジュアライズする学生もいます。

デザインの本質を捉える能力

デザインの本質を捉える能力

ものづくりの技法は学べるのですか?

 基本的な技法を学ぶ科目もたくさんあります。前述のプログラミングを学ぶ科目もそうですし、1、2年次では、写真やシルクスクリーン、タイポグラフィを学ぶ科目、木や樹脂、金属などの素材の加工を学ぶ科目、モーションデザインや3Dなどデジタル造形を学ぶ科目などがあります。ただ、4年間を通して特定のメディアや技法を探求していくようなカリキュラムではありません。それらの科目を入り口として、学生自身が技法を究めていきます。
 3年次、4年次ではあらかじめ決められたメディアや技法で考えるのではなく、問題そのものに向き合う課題が増えていきます。例えば、「木で椅子をつくる」ということを目的にするではなく、「座る」あるいは「身体を支える」という行為に対して、「誰に対して」「どのような時に」ということを考えた先に、最適な技法や素材が見えてきます。技法を知ることで生まれるアイデアもありますが、そこに捉われずに課題に向き合うことも必要です。

新しい分野を切り拓くために

新しい分野を切り拓くために

卒業生はどのような分野で活躍されていますか?

 広告代理店やゲーム会社、家電メーカー、映像制作会社、印刷会社、美術館、デザイン事務所など、一般的な美大の卒業生と同じようにデザイナーやアートディレクターや学芸員として活躍している人もたくさんいいます。一方で総合職、営業職、企画職などで就職する学生がいることも基礎デザイン学科の特色のひとつです。ものをつくることだけがデザインではありません。基礎デザイン学科で学んだ横断的なデザインの考え方を様々な職業の中で生かしている卒業生が大勢います。
 本学科の卒業生のように新しい分野を切り拓いていってくれる人、デザインと関係なさそうな分野にもデザインの考え方をインストールできるような人がもっと増えていってくれるとうれしいですね。

デザインはインプットとアウトプット

デザインはインプットとアウトプット

最後に、高校生へメッセージをお願いします。

 美大を目指しているなら、まず、あまりマジメになりすぎないほうが良いんじゃないかと思いますね。勉強だけでなく、映画をみたり、音楽を聴くなど、いろいろなことをしたほうが良いと思います。絵を描くのも、小手先の技術だけじゃなく題材や視点が大事。その部分を磨くにはたくさんのインプットが必要です。
 それと人との出会いも大切で、いろんな人と出会えるかどうかで、可能性が変わってきます。ひとりではどうしても視界が狭くなりがちです。自分の位置を人との出会いで見極めるのも大事なこと。この記事を読んだことも出会いのひとつかと思いますので、もし、進路に迷ったらムサビの基礎デザイン学科を思い出してください。

貴重なお話ありがとうございました。
(本ページの内容は「学びのすすめ_芸術系」と同内容です)

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