教授に聞く、この学問の魅力
多摩美術大学
グラフィックデザイン学科
多摩美術大学美術学部では、日々あらゆる可能性を秘めたクリエイターの卵たちを育てている。彼らを導くのは、様々なデザイン分野に精通した教授陣だ。
グラフィックデザイン学科のイラストレーション授業で教鞭をとる高橋庸平准教授もそのひとり。社会問題や災害などをテーマにしたポスターを数多く手がけ、著名なコンクールで多くの実績を残す高橋准教授は、同学科の卒業生でもある。
現在、後輩となる学生たちに、グラフィックデザインを創造するための知識と技術を伝えている。
今回は高橋准教授に、現在のグラフィックデザイン学科で学べることや、イラストレーションの方法論などについて、お話を伺った。
高橋 庸平准教授
2005年 多摩美術大学大学院博士前期課程修了
2019年 多摩美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、博士号取得(研究テーマ:震災に向き合うイラストレーション・ポスター)
2020年 多摩美術大学グラフィックデザイン学科講師
2022年 同大学同学科准教授
主な受賞歴
2005年 FUKUDAポスター大賞2005 一般の部 最優秀賞
2016年 日本ブックデザイン賞2016 金の本賞
2016年 モスクワ国際グラフィックデザインビエンナーレ GoldenBee賞
2020年 グラフィス ポスター年鑑2021 金賞 ほか
グラフィックデザインの魅力を上げるために
イラストレーションの「目的」を意識する
3つのコースから授業を選び、自分のためのカリキュラムを
グラフィックデザイン学科の、4年間の授業の流れをご説明ください。
最初の2年間は基礎課程です。
キーワードとしては、描写、編集、写真、動画、立体、ポスター、サインシステム、Web、発想法などが挙げられますが、これからグラフィックデザインに携わる上で必要な技術や知識を幅広く学びます。それぞれの好みのような狭い分野に片寄らないように、色々な経験を重ねることで将来に向けて選択肢の幅を広げます。
3年次からは専門課程となります。
その授業は「アートディレクション」「クリエーション」「グラフィックデザイン」という3つのコースに分かれます。アートディレクションコースでは、社会に出てから求められる広告的な視点を学ぶコースです。個人の表現をスケールアップさせるための客観性のように、多くの人に影響を与えるための表現力を育みます。クリエーションコースは、自分自身と向き合いながらヴィジュアル表現の可能性を探求するコースです。デザインを着地させる能力を身につけることを目的としています。グラフィックデザインコースは、デザインの基礎となる平面的な表現技術の向上を目指し、さらに高い目的意識によって独創性のあるデザインを実現するためのコースです。
その中から1コースを選ぶのですか?
1つのコースに片寄らないように、2つ以上のコースにまたがって選択します。各自の意志によって、自分のためのカリキュラムを作り上げることになります。
テーマを調べ、情報をまとめ、何をどう表現するかを考える
高橋先生は学生時代も多摩美術大学で学ばれていますが、進学のきっかけは?
子どもの頃から、家にたくさんの絵本があったという環境が大きかったと思います。そのため最初は何となく絵本作家に憧れていましたが、具体的にどこに進学したいという考えはありませんでした。そんな時、多摩美のオープンキャンパスで見たイラストレーションの学生作品から刺激を受けて進学を希望しました。
その後、無事に多摩美に入学してからの話ですが…当時、イラストレーションの授業を指導されていた恩師である秋山孝先生のもとで地震災害をテーマにしたポスターを制作する機会がありました。そこから、社会問題をテーマにしたイラストレーションに魅力を感じるようになり、今に至ります。
そのポスター制作は、先生の授業でも実際に指導されているのですか?
社会問題とポスターというテーマは僕のインスピレーションの源なので、それに代わるテーマは各自で模索してもらいます。その上で、テーマに沿った方法で掘り下げていく。さらに、そのテーマについての何をモチーフとして取り上げ、どうやって表現するかを考える。これは、僕が地震災害をテーマにしたポスターについて研究してきた時と同じ方法です。
学生に最初に話すのは「そもそも何がしたい?」から
高橋先生が授業の中で重要視している点は何でしょうか?
先ほど話したようなテーマを掘り下げることに加えて、そのテーマが持っているコンテンツ(情報の内容)を魅力的に見せる技術でしょうか。特にイラストレーションの授業では、描くという原初的なコミュニケーション手段によって普遍的な表現力を向上することを目標とした指導を心がけています。
コンテンツの力を上げるには、技術面以外では何が大切でしょうか?
明確な制作目的だと思います。この作品は誰に何を伝えたいのか。その目的は時と場合によって様々です。僕のようにテーマありきで描く人もいれば、先に使用したい画材や技法があって、それを中心に描き始める人もいます。同じ土俵には並べられない各自の目的があって、それが作品の個性につながっていきます。ですので、授業では「そもそも何がしたい?」という所から話を進めることが多いです。
ルールや制約の中で要求に応えていく面白さ
卒業後は、どんな業界に進まれる人が多いのでしょうか?
卒業生の多くは広告をはじめ、印刷、出版、ゲーム、映像、Webなど幅広い分野で活躍しています。ただし、それらは一例であって、豊かな感性や創造力、問題解決能力を育んだ卒業生たちが選べる仕事の幅はかなり広がっていると思いますし、今後もさらに広がって欲しいと思います。
橋先生が考える、グラフィックデザインの面白さとは?
この分野を志す人たちは「絵を描くのが好き」とか「周りに絵が上手いと褒められた」という経験をきっかけとしていることが多いのではないでしょうか。ですが、グラフィックデザインは好きな絵を描くだけでは成立しません。
「伝えるべきメッセージを適切に相手に届ける」という役割があります。限られた時間やスペースといったルールや制約の中で、どんなパフォーマンスができるかを考える。そこに面白さがあるように感じています。
他人の評価だけではなく、自分で考える良し悪しを大切に
グラフィックデザインに興味がある高校生へメッセージをお願いします。
グラフィックデザインは、人に情報を伝える手段です。そのための目的意識を高く持っておくと良いのではないでしょうか。美大受験の対策を例にすると…学校や予備校で先生に教わるままに制作を続けているだけでは、指導した先生のための作品になってしまいます。そうならないために、例えば鉛筆デッサンを描く時には「この質感を表現したい」や「物の重さを伝えたい」などの具体的な目標を立てる。そうすると、目標を達成できたのか自分でも判断できます。上手くいかなかったら原因を探りましょう。周りの人からアドバイスをもらうのであれば、具体的な目的があると聞かれた方もコメントしやすいと思います。そうやって、自分の中に良し悪しの評価を積み重ねていくことが将来的に役立つと思います。
そして、もうひとつ。美術という分野に片寄ることなく、色々なことを経験して学びましょう。それが他人よりも秀でたオリジナリティにつながります。
貴重なお話ありがとうございました。
(本ページの内容は「学びのすすめ_芸術系」と同内容です)