教授に聞く、この学問の魅力

東京造形大学 造形学部
デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻領域

 ユニクロのTシャツデザインをはじめ国内外ブランドのテキスタイルデザインを手掛けてきた鈴木マサル教授のアイテムには、ハンカチや傘、トートバッグなど人間の生活に密着した実用的な物が多数存在する。
 テキスタイルデザインという言葉を聞いて、すぐに思い浮かぶ職業は洋服のファッションデザイナーかもしれないが、教授の手がけたアイテムからわかることは、洋服、和服に限らず、テキスタイルはありとあらゆる場所に存在し、私たちの生活を支えているということだ。「人間は生まれてから10秒後にテキスタイルに包まれる」と語る、鈴木教授の教育スタンス、同大学の実践的な取り組みについての話を伺った。

鈴木マサル教授

2009年 北欧最大の展示会 HABITARE ahead!(フィンランド)にて作品発表。
2010年 AMBIENTE(ドイツ)にて経済産業省主催のconnectjapanデザイナーに選ばれ作品を発表。
2010年 マリメッコ社(フィンランド)のデザインを手掛ける。
2012年 ムーミンのトリビュート企画、MOOMIN TRIBUTEWORKSを手掛ける。
2013年 カンペール フォーハンズとのコラボ企画、CAMPER BY MASARU SUZUKI を発表。
2014年 アルフレックスジャパンにて企画展示「MARENCO×鈴木マサル」を発表。
2015年 ユニクロからコラボ企画「UNIQLO×OTTAIPNU」をリリース。
2016年 書籍「鈴木マサルのテキスタイル」(誠文堂新光社刊)を上梓。

デジタル化が進んだ未来でも
人間はテキスタイルに包まれている

過去も未来も、人間にとって一番身近にある素材

はじめに教授にとっての「テキスタイル」についてお話しください。

 まず新しく入ってきた学生には、自分たちの身の回りにあるテキスタイルをピックアップしてごらん、と話します。実際、私たちはテキスタイルに囲まれて生活しています。家に帰ると絨毯やカーテンもそうですし、毛布や布を使った椅子、着ている洋服もテキスタイル。人間は生まれてから10秒後にはテキスタイルに包まれているんですね。24時間、常に離れないような存在。とにかく人間にいちばん近い素材が、テキスタイルなんです。学生たちはテキスタイルを扱って物を作っていくわけですから、それは常に人間にいちばん近い素材だということを意識して、制作に取り組んでほしいと伝えています。
 また、テキスタイルはとてもローテクな世界です。社会全体のデジタル化が進んでいく中でも、恐らくテキスタイルというものだけは今後もあまり変わらないと思います。例えば洋服はすべてが手作業で作られています。どんなに安い服でも必ず誰かがミシンをかけて、人の手によって生産されています。将来的に紙や木は、3Dプリンターで作られる素材に代わっていくかもしれませんが、そういう時代が来たとしても、人間は服を着ているでしょうし、布団や毛布にくるまって寝ているでしょう。今のところテキスタイルに代わる素材は考えられないんですね。こういう話をすると学生たちはハッとした表情を浮かべます。あまりにも身近すぎて意識の外にあるので、まずはそこに気づいてもらいたいわけです。

基礎となる「織り」と「染め」手が一番汚れる専攻?

テキスタイルデザイン専攻領域の、4年間の学びについてご説明いただけますか?

 1・2年生でテキスタイルの基礎となる「織り」と「染め」を同時に学び、3年生になるといずれかの研究指標を選択します。1年生の時から手織り機を使って作品を作ってもらいます。手織り機の使い方を覚えるのはみんな初めてですので、やはり最初は苦労していますね。
 また、「型染め」といわれる伝統技法も学びます。染めの手作業をたくさんやるあまり、手が一番汚れているのがこの専攻の学生といわれたりもします(笑)。こうした演習や授業を通じての4年間で、物を作る楽しさを徹底的に教え込んであげたいと思っています。学生たちが将来、テキスタイルとは関係のない分野へと進み、物づくりから離れていってしまったとしても、手を動かして物を作ったという経験は、すべての事に活かされると思います。綺麗に物を仕上げられる人間は、例えば企画書ひとつとっても美しいレイアウトで作成できるようになると思います。

求められているデザインとはどんな物か、常に考えるように

授業の際は、どういった指導を心がけられていますか?

 私は、大学には色々なタイプの先生が必要だと思っており、どちらかと言えば私は、デザイナーとして全力疾走している姿を学生たちに見せたいなと考えています。ですので、常に外の仕事を第一線でやっていたい。それが大学に私がいる意味であり、求められていることだと思っています。テキスタイルデザインは手作業の世界で、伝統的なことも学んだりするため、それがどのように世の中につながっていくのかが見えにくい分野です。私がデザイナーとして働く姿を見せることで、テキスタイルは仕事になる、ということが彼らにも理解できると思うんですね。
 大学はカルチャースクールとは違い、プロを育てる場だと私は思っているので、それに見合った教育もします。プロになるということと、自分が楽しいということは違います。「世の中から求められているのはどんな物か」ということを考えながら作品を作りなさい、とにかく考えることが大事だよと常に指導しています。

産学連携プロジェクトからヒット商品も誕生

こちらの授業では、何か特別な取り組みはされていますか?

 織物の産地である山梨県富士吉田市で、2009年から産学連携で「富士山テキスタイルプロジェクト」を展開しています。これは通常の産学連携とはやや趣が違い、インターンシップに近い形で、ひとつのメーカーに学生一人をつけ、共同で商品開発を行うという実践的な内容です。8社ほどあるメーカーとのペアリングは、学生の個性などを考えて私が行いますが、その後は基本的に学生任せです。このプロジェクトをきっかけにそのままメーカーに就職した卒業生も少なくありません。
 実は、このプロジェクトからヒット商品も生まれています。「おまもりぽっけ」というスマホのケースになるような物を、お守り袋の生地を作る機屋(はたや)さんと共同で開発した学生がいます。ちなみに彼女は後にフリーランスとなって「kichijitsu」というブランドを立ち上げ、今でもその機屋さんとのブランドを育てながら「GOSHUINノート」などのヒット商品を開発しています。世の中には多種多様な産学連携がありますが、こういったケースは珍しいのではないでしょうか。

テキスタイルは仕事になる!「たまたま」の縁でも大事に

高校生へメッセージをお願いします。

 高校生のうちから、将来こういう仕事がしたいと決めている人は少ないと思います。私もそうだったんですが、入学するきっかけは些細なことだったりするんですね。たまたま高校の先生から「向いているんじゃないか」と言われたり、たまたま学校説明会で私と話をしたりとか。
 もちろん中にはファッションデザイナーになりたいなど明確な目標を持っている学生もいますが、そうではない、たまたま縁があって入学してきた学生に対しても、この業界では何が行われていて、どんな仕事があるのかということをイメージできるようにしてあげたいと思っています。テキスタイルは仕事になるんだということがわかるように教えてあげたいです。私自身も本当に「たまたま」が重なって現在があるので、そういうきっかけも、すごく大事なことだと思っています。

貴重なお話ありがとうございました。
(本ページの内容は「学びのすすめ_芸術系」と同内容です)

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