保育業界の今
人気職業『保育士』が不足するワケ
●小学生の頃、就きたかった職業は何ですか?
第一生命が2023年12月に行った調査(第35回「大人になったらなりたいもの」下図参照)によると、男子小学生のなりたい職業1位は会社員、女子小学生の1位はパティシエでした。それでは、今から35年前に行われた第1回調査の結果はどうでしょうか?男子小学生のなりたい職業1位は野球選手、女子小学生のなりたい職業1位は保育園・幼稚園の先生でした。野球選手は現在も男子小学生のなりたい職業5位、幼稚園の先生/保育士は女子小学生のなりたい職業6位にランクインしています。いつの時代でも、野球選手や幼稚園の先生、保育士はなりたい職業ランキングの常連です。
しかし現在、なりたい職業ランキング常連の保育士が足りないと言われています。保育士の有効求人倍率は3.54倍で、全職種平均の1.35倍を大きく上回っており、その需要が伺えます。(2024年1月 厚生労働省「職業安定業務統計」)
いったい何故、保育士は不足しているのでしょうか?
●働き方の変化
「寿退社」「育児退職」が当たり前だったかつて、子どもが生まれて3歳になるまでは保育園等には通わせず、母親が家で育てる家庭が大半でした。ところが、1991年に労働力強化のため育児・介護休業法が成立したことで、育児休暇制度が世の中に浸透し、就業率の低かった25歳~44歳の女性が職場復帰する割合が年々増加。それまで保育園等に通うことが少なかった1・2歳児ですが、母親の1年間の育児休暇終了に伴い、保育園等に通わせる家庭も多くなりました。
そのため1・2歳児の保育園等利用率が上がり、保育士不足へと陥っているのです。さらに、法律で定められた最低限必要な保育士の数(配置基準)が、3歳児は子ども15人あたりに保育士1人必要なことに比べて、1・2歳児は子ども6人あたりに保育士1人なので、保育園等に通う1・2歳児が増加すると必要な保育士の数も格段に増加します。また2024年4月に、3歳児は子ども20人あたりに保育士1人→子ども15人あたりに保育士1人、4・5歳児は子ども30人あたりに保育士1人→子ども25人あたりに保育士1人へと配置基準が見直されました。
1・2歳児の配置基準についても2025年以降の見直しが予定されているので、まだまだ保育士不足は続きそうです。
保育士の将来
保育を取り巻く状況について(令和3年度 厚生労働省)
保育士の登録者数と従事者数の推移(こども家庭庁)
●潜在保育士復帰への取り組み
保育士資格を持っているものの、保育士として働いていない人のことを潜在保育士と言います。令和3年の保育士登録者のうち約6割が潜在保育士です。東京都の調査によると、潜在保育士の約6割が「雇用の条件さえ合えば、働きたい又は保育の仕事に転職したい」と回答しており、復職する希望条件として「勤務時間」「給与等」が上位に挙がっています。(令和4年度東京都保育士実態調査結果)国や自治体は、潜在保育士が復帰することで保育士不足を解消させるべく、様々な復職支援を行っています。
●さまざまな復職支援事業
支援のひとつ、「未就学児をもつ潜在保育士に対する保育所復帰支援事業」は育産休から復帰した未就学児を持つ保育士に保育料の一部を貸与する制度です。
2年間保育士として就労することで返還が免除になります。育産休からの職場復帰を支援し、育児による退職を防ぎます。
「保育補助者雇上強化事業」は保育士の業務負担軽減のため、サポートを行う補助者を雇う補助金制度です。2024年4月からは、補助者の対象に保育士資格を持つ潜在保育士を追加し、さらなる保育士の業務負担軽減とともに、責任が少なく勤務時間の調整可能な補助者として潜在保育士が復職できるよう制度が変更されました。
保育士の年収の推移(厚生労働省 賃金構造基本統計調査より作成)
●待遇の改善
保育士の待遇は、年々制度が整えられ改善が進んでいます。平成26年には保育士の年収は全職種の72.4%の額でしたが、令和5年には77.5%となり、徐々に差が縮んでいることがわかります。その一因が処遇改善加算です。2015年以降、国が段階的に進めてきた制度で、3つの区分があります。Ⅰ・Ⅱでは職員の勤続年数や役職に応じて、公定価格※に金額が加算されます。Ⅲでは、職員数×9,000円が加算されるベースアップが実施されています。
公定価格:国が定めた子ども一人当たりの保育に必要な費用。公定価格から保育料を引いた金額が国や自治体から保育所等に給付される。
●各自治体による手当
保育士の給与は保育料だけでなく、国や自治体からの給付費で賄われているため、保育士不足に悩まされる各自治体では独自の制度を整えています。例えば千葉県松戸市では、11年目までは月4万5,000円、20年以降は月7万8,000円が追加で支給される「松戸手当」を実施しています。
●2025年度以降の開始を予定している制度
国では、2025年よりモデル賃金公開制度の開始を予定しています。保育所等による予算の適正利用と賃金の底上げ、また就職先の検討材料の一つにすることで、就職後のミスマッチを減らし早期退職を防ぐことが期待されています。また日本保育連盟では、保育士の専門性を向上させる構造的な仕組みとして新資格「認定保育士」制度の創設を予定。発達障がいや不適切保育問題に対応できる保育士を認定することで、専門性が適切に評価され、待遇改善に繋がることが見込まれています。
潜在保育士や現職だけでなく、保育士を目指す人への支援制度も充実しており「修学資金貸付(免除規定あり)」「職場体験」「相談会・セミナー」などが各自治体で行われています。
大学・短大・専門学校等の保育士養成施設でも、奨学金制度が充実していたり、附属の保育所等でアルバイトができたりする学校もありますので、制度をよく調べて学校選択をすると良いでしょう。
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道灌山学園保育福祉専門学校
慈恵福祉保育専門学校
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